三宿の交差点から徒歩30秒、婉美なネオンサインに思わず韓国情景を浮かべてしまう焼肉屋さんをご存知ですか?
「韓国の焼肉屋さんって今こんなオシャレなの?」とお店の前を通るたび、漂うイマ感につい気を取られてしまっていたのはきっと僕だけじゃないハズです。
今日はそんな興味を沸かせてくれるこのお店に取材させて頂いたときの話を書いてみようと思います。
自分が主役になれるようなお店の空間価値。
韓国式豚焼肉「豚山食堂(テジサン食堂)」は2020年の1月、オーナー山崎さんが三宿のこの場所で6年続けたヤマバルから新たにスタートさせた新業態。
ネオンサインに包まれた店内は、一言で言うと非日常な高いトリップ感がある。
表の印象を裏切らない婉美さに引き続き出迎えられ、テーブルと壁に塗られた個性的なカラーは店内に流れる音楽と映像と供にお店の世界観を加速させている。
当たり前にある伝統装飾はそこにはなく、その代わりにあるのはどこを切り取っても韓国映画のワンカットになる空間と、その中央にスタンドインしてる主人公感。
美味しい韓国料理はどこでも食べられる時代だし、韓国文化を随所にちりばめた空間提供にも驚くことはもうありません。
だからこそ、というべきかこの空間に「ここはなんか違うぞ」と価値を感じとってしまいます。
面白いのが、どうやらその「なんか違う」は「気持ち悪い違和感」ではなさそうだなということ。
むしろなんで今までこういう場所がなかったんだろ、こういう場所が欲しかった気がする、というデジャブに似ているのです
だからこの違和感との相性の良さを感じて「今日はここで楽しもう」というスイッチも入りやすい。第一印象で、半分今夜を満足させてしまうんじゃないかと思えてくる程です。
韓国の今、というエネルギーを届ける
ところで気になるのが、なんで韓国料理を?どうしてこういうネオンサインのお店に?というところ。山崎さんに尋ねると開口一番に面白い答えが返ってきた。
「本当は韓国アパレルを研究しに行ったんですよ(笑)」
「ただそこで韓国焼肉が進化してることを感じました。
韓国焼肉ってえごまやサンチュなど葉を両手で巻いて食べる、って皆さん知ってますよね。ぼくもそうです。
でも今若い人たちは片手にスマホを持ってるんです。だから両手が使えない(笑)。片手にスマホを持ちながら、サラダのお皿に焼肉を置いて、野菜をつかみなおして食べる。これで片手で行けるんです」
たしかに簡単にワンハンドで食べることができる。これは今のヒトにありそうな体験だとすっと納得できてしまう。
つづけて山崎さんは、もう一つの「今」を教えてくれました。
「僕らが思い出すサムギョプサルって、長くて厚みのある豚肉の三枚肉ですよね。その一種類をひたすら食べていると思うんです。けど、今、韓国豚焼肉っていろんな部位の肉が出てくるんです。」
「聞いたら今はこうしたほうが喜ばれてて、韓国の方はトントロも好きだよっていうんです。それで思いました『あ、これは面白い、日本でやってみたい!』って。きっかけはそこです。よく考えてみればそもそもサムギョプサルって一つの部位の名前ですしね。」
確かに韓国豚焼肉が三枚肉(サムギョプサル)だけでなくてっていい。いろんな部位の豚肉を韓国風に味つけて巻いてたべたってそれも韓国豚焼肉。
それにむしろ色々食べられるなら胃も場も飽きない。なるほど、食べ方や出し方を聞くと確かに韓国の今がここにあるかもしないと思えてくる。
今、韓国はネオンサインの個性で溢れてる
さらに山崎さんはどうしてこういうネオンサインのお店にしたのか、「韓国の今」を踏まえて話してくれます。
「明洞の隣にウルチロサムガという駅がありまして、小さい街だけどそこは個性的なお店が多いんです。オシャレだけど街はマイナー。まるで三宿みたいだなと思っていたんです。
で、じゃこの(ウルチロサムガという)街でお店を持つならどんな店を構えるか、韓国で考えてみたんです。そしてそのビジョンをそのまま日本・三宿に持ってきました。ここにはその原体験が詰まっているんです」
ちなみにここのような韓国焼肉×ネオンサインがあったわけではないと言います。
「ネオンサインは訪れたカフェやワインバーなど街の様々なところにあって、お店の一つ一つが街に強いエネルギーを作ってると感じたんです。だからこのエネルギーを取り込んだお店を作って、新しいサムギョプサルを届けたら間違いなく面白いはず、やろう!と決心したんです、気持ちはもう『いったれー!』という気分でした」
きっといずれ韓国にもこうしたネオンサインの焼肉店ができるだろうし、既にあったのかもしれない。ただそういう事例がないと表現してはいけない理由はどこもない。
むしろ常に新しい何かが世の中に影響を与える時は、こうした創造力の生まれる時と決まってます。それが結果通り過ぎる人にエネルギーを与えるなら、現地で描いたビジョンは既に一歩一歩実現に近づきはじめていると言えるかもしれません。
韓国で描いたビジョンを着実に三宿で実現させている山崎さんに、これからの飲食店ってどうなると思いますか?と尋ねると「月並みかもしれないですが」と加えながら優しく話し始めてくれました。
【後編につづく】
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※三茶散歩ではお店のビジョンやこれからの飲食店についてなど、取材の依頼をお受けしております。MAIL: sanchasanpo@gmail.com