こんにちは三茶散歩の是近です。
突然ですが皆さん「奥三茶」をご存知ですか?そこは茶沢通りを進んだ先にある、三軒茶屋駅からちょっと離れた飲み屋街、三茶第三のホットスポット。
決してふらっと行けるような距離にあるわけではないこの一帯は「来たからには今夜はここで楽しもう」という独特の雰囲気があり、知らない人同士でも会話が弾んでゆくこともあったりなかったり。
そんな目には映らない熱量と魅力が漂う不思議なスポットです。
今日はその奥三茶を中心に4店舗を構え、2020年で6周年を迎え圧倒的な存在感を放つ2TAPS代表取締役河内亮さん、取締役小柴直哉さんにお伺いしたときのことを書いてみようと思います。
後編はこちら
人を運んで来る「駅」のような店舗たち
2TAPSの経営するお店は1店舗目の「マルコ」を皮切りに、距離感が心地いいカウンターのお店「ニューマルコ」、立ち飲みだけど一流割烹というギャップが大人気の「コマル」、そして昼はコーヒーと食堂、夜は酒場の「食堂かど。」があり、この4軒はそれぞれお互い近しい距離に存在しています。
どこかが満席でも系列店が近場にあるのでお互いの店舗を案内しやすく、2軒目、3軒目のはしごも迷わず回遊できる楽しみを提供しています。
それまで何気なく存在していたとある三茶の一画を、茶沢通りを一つの沿線に、それぞれの店舗がまるで「駅」となって多くの人を運んできた。人々の日常を面白く、楽しく、美味しく変え、それは三茶に新しい街を作ったような印象を持たせた、それがマルコ系列です。
そのことを率直に河内さんにぶつけると「いやいや!そんなことないですよ」と謙遜し次にこう静かに話してくれました。
河内「ただ僕たちが大事にしてたのは『頭っからウェルカム』でお客さんと育ってゆくということです。これだけはブレないようにしてきました。」
それは突然思いついて放った言葉ではなく、これまで何十、何百と言い続けたてきたからこそ出てきた言葉に聞こえた。
頭っからウェルカム、でお客さんと育ってゆく
河内「奥三茶はたまやさんが掲げ、人の動きを作ったと思ってます。おかげで僕らのお店にも気がついてもらえることができました。ほんと運がよかったなと思っています。
ただ、駅から決して近くないこの場所まで来てもらった方々に『通ってなんぼ』のお店にはしたくないと決めていました。」
どういうことですか?とちょっと突っ込んで聞いてみた。
河内「三軒茶屋といえば、ちょっと小汚い感じが懐かしくもあり、大人びた感じもする。それが三茶っぽいお店だったり、三茶で飲むステータスだった、って思うんですね。 ただ一方で通ってなんぼというお店も多く、時にはあまり楽しめないお店もあるのかなと感じてるんです」
わかる、と思った。自分もそれを経験したことが何度があったからだ。
小柴「三茶は老舗が多く、おとうさんおかあさんが『また来たね』って言ってくれれば、嬉しくて通うようになっていくんだけど、フラッと新参者が入るには少々手強い印象もありますよね。度胸を試され突破してこそ三茶の店を知ってるっていう感覚。」
河内「それ自体はステータスでもあるし、とても魅力的だと思うんですね。なんですが、実は若い自分たちが当時フラッと入って、接客してくれるお店が少なかったという体験をしたことがあるんです。仲良くなるまで喋ってくれない感じっていうんですかね。
その時思ったんです。楽しいお店を求めてるのに、なんで喋ってくれないんだろう。それだとまた来たいと思う人達を増やしていけないんじゃないか?って」
小柴「そしたら思ったんです『俺らいけんじゃない?』って。俺らのほうが接客できるし違いをつけられる、と思ったんです。いや今思うとまじで生意気ですよね(笑)」
河内「確かに(笑)。でも通ってなんぼ、だと僕自身面白くないんですよ。そんな感じだと、お酒を楽しく飲めない。つまらない。それより、頭っからウェルカム、でお客さんと育っていきたい。」
小柴「自分たちならどっちがいい?どっちが面白い?って考えると、初めて来たお客さんでもまるで常連のように楽しくしてくれるお店。そっちのほうがいいに決まってる。 めちゃくちゃ美味しくて、しかも頭っからウェルカム。それなら勝てると思った。だから通ってなんぼではない接客を大事にしてきました。」
どこも最初から接客に差があったわけではないと思います、そうつけ加えてくれた。
経営を続けていくうちに自然と常連さんに声をかける頻度が上がるのは当たり前に起きることだからだ。 ただその接客のスタイルは、二人の描いていたスタイルとは違っていた。
「頭っからウェルカム」
それは自分たちはどうありたいのか、ある種の信念を手にいれた瞬間だったのだ。
河内「ま、ぶっちゃけとりあえず何もできなやつが、カッコつけてもしょうがないなってだけの話なんですけどね(笑)」
おちゃめに謙遜する感じも、きっとこれまでの接客経験の賜物なのだろう。
自分たちの信念で、お店をブランディングする
まだまだ落ち着きを見せない100年に1度のウイルスは、全国各地どこにでも行けた時とは違い、自分の住む街をより詳しく知る機会に変えていった。
三軒茶屋を生活拠点に暮らす私たちは、今、非日常の楽しみを手にするよりも、日常をいかに楽しんで過ごすかを取り組むようになっている。
そんな中、創業して何年か経つ中でこの「頭っからウェルカム」という信念はどう変わってゆくのかを聞いてみた。
すると河内さんはこう答える。
「これからこの流れがもっと来ると思っています」
さらに話は続いてゆく
河内「どこでもそうだと思うんですけど、自分の住む街に発見があると、その街がどんどん好きになる。特に三茶に住む人達って、そういうモチベーションが高い方なんじゃないかと思ってます。だって三茶に住んでる人が、三茶嫌いってあんまり聞かないじゃないですか?
ただ、飲食店でいうと『ここに美味しいお店がある』では三茶はもう充実しすぎてる。それだと発見にはなりづらい。
むしろお店を選ぶ時『美味しいものがある』 以上に、そのお店が打ち出す人当たりとか、包容力とか、居心地の良さなんかを含めて選ぶような環境に変わっていってると思ってるんです。その流れがこれからもっと強くなると思ってるんです。」
だからこそ、なのだろう。
「頭っからウェルカム」という信念は、これからもっと不可欠になる。より彼らの絶対的な武器になる、誰かが急に作りたくてもつくれない財産へと変わってゆける。
今はあらゆるモノ・コトが満たされてなかなか差がつきにくい。そんな中残されるのは、自分たちがどうしていきたいかという信念だ。
品揃えや料理の質はなくてはならない基盤だが「自分たちの信念でブランディングする」ことは、決して他には真似することができない強みになってゆく。
美味しくて、楽しくて、頭っから常連のように接してくれる。そんなお店がこの街にあるなら、それは誰もが行ってみたいと思うに決まってくる。
「どうりで4店舗も展開しても人気が出るわけですね」と思わず言った。納得がいったからだ。
小柴「ありがとうございます。お客さんとの理想的な関係性を考えていく上で、まず居心地を作なければいけないとずっと思っていました。結果的にお客さんにそれを喜んでもらうことができ、事業も拡大していくことができました。ただ・・・。」
ただ?
小柴「実は店舗を拡大していったのは、お客さんとの距離感に変化を感じたからなんです。」
三軒茶屋という地にお店を開いて2020年の今年、マルコは6周年を迎えた。当然ここまで来るまでにそれなりのドラマがある。きっと多くの変化を受け入れながら進化して行ったはずだ。
それでもなお、今でもこうして『頭っからウェルカム』という信念を大事にしているのは、店舗拡大は信念とお客さんをつなぐ手段だったからだった、と話を続けてくれた。
「俺でどうですか?という仲間はいるか?」後編へ続く。